第92回 西洋ワサビとヒ素
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新年、明けましておめでとうございます。本年が皆様にとって佳き年でありますことを祈っております。
未だに新型コロナウイルスの流行は続いておりますが、ワクチン接種も始まることから、1月から従来型の健康生活に関するエッセイに戻らせて頂きます。今月は環境中にある重金属のひとつであるヒ素についての研究を紹介させて頂きます。ヒ素は環境中に普通に存在するのに水銀、カドミウムなどと同様に摂取すると健康への影響が大きな重金属です。私の世代だとヒ素ミルク事件や和歌山カレー混入事件などが記憶に刻まれています。ヒ素は土の中に普通に存在しますが、それらを食べた微生物を通して、海藻類や魚介類に含まれます。このヒ素を微生物などの代わりに食べてくれる植物として西洋ワサビが注目を集めています。西洋ワサビは、通常のワサビのように緑色をしていませんが、通常のワサビよりも1.5倍の辛さがあるために、市販のチューブワサビや粉ワサビに使用されています。
この研究(Ecotoxicology and Environmental Safety 174 (2019) 295–304)では、西洋わさびの根を、さまざまな濃度のヒ素(5〜60 µg l-1)を含む培地の中で培養しました。ヒ素は西洋ワサビの成長を遅らせましたが、それにもかかわらず、最高用量で最大3倍のヒ素が濃縮されました(左図参照)。さらに、西洋ワサビは7日以内に培地から75%ものヒ素を除去することができました。このヒ素を細胞が取り込むと活性酸素を発生させてしまいます(右図参照)。しかし、西洋ワサビはヒ素で増加した活性酸素を減らす抗酸化作用を持つアミノ酸・プロリン含有量の大幅な増加と抗酸化酵素(ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)活性を増強しました。
今年も身近な食材の健康効果に注目していきたいと思います。