第96回 ラクトフェリンと炎症
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このエッセイを書かせて頂いている5月初旬に至っても、残念ながら新型コロナウイルスの流行は止んではいません。今月からは高齢者のワクチン接種も始まります。早く国民の70、80%のワクチン接種が終わることを祈っています。
さて、今回は類鼻疽(るいびそ)と呼ばれるわが国では珍しい病気についてです。類鼻疽は、細菌の一種である類鼻疽菌による感染症です。主な流行地域は、オーストラリア北部と東南アジア、南アジアで、アフリカや中南米の熱帯地域です。病原体は、類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)という細菌です。類鼻疽菌は、土壌、水などに分布する環境細菌で、この細菌を含む土壌や水の飛沫等をヒトが吸い込んでの感染や、傷からの感染があります。しばしば死亡に至るこの類鼻疽菌にラクトフェリンが有効であることが発表されました(PLoS Negl Trop Dis 2020 Aug; 14(8): e0008495)。ヒトの末梢血単球を抽出し培養して、ラクトフェリンを加え、身体を守るサイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)の分泌量を測定しました。実験は単球に1時間後に、(1) 培地と100μg/mLの(2) 培養で(人工的に)作ったラクトフェリン、そして同濃度の(3) ヒトから抽出したラクトフェリンを加え、5時間後の腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を測定すると図のようにヒトから抽出したラクトフェリンが最も多くのTNF-αを生み出しました。既にこのラクトフェリンによるTNF-α増産の仕組みも判明しており、トール様受容体4(TLR4)が関与していることが分かっています。
ラクトフェリンが炎症に効果を有することはこれまでも分かっていましたが、熱帯感染症である類鼻疽にも有効であることが証明され、より広範な利用が進められる期待がますます膨らんでいます。ラクトフェリンに注目です。