第109回 味噌と炎症
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新型コロナウイルスの流布により、人類の健康への関心が高まりました。特に、免疫系との関わりが高い発酵食品に注目が集まっています。発酵食品といえば、欧米では、ヨーグルト、ワイン、ビネガー(酢)などが利用されていますが、アジアでは、豆板醤やキムチなどが有名です。ナタデココも発酵食品ですね。我が国の発酵食品の代表格は味噌です。味噌から、私たちの健康に役に立つ新たな酵母が見つかりました(Gastroenterol. 2021 Sep;56(9):829-842)。この研究では、腸の培養細胞を用いて、免疫抑制的に働くインターロイキン(IL)-10を作る能力について測定が行われました。免疫を抑制する物質?と思われるかもしれませんね。新型コロナウイルスへの関心が強まっていた昨今、免疫は高めた方が望ましいと思われがちです。しかし、免疫は高まり過ぎると困ります。関節リウマチ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症などは免疫が高まり過ぎた病気です。
実際に、培養した腸細胞に新しい味噌酵母を入れると、インターロイキン(IL)-10の産生は劇的に上昇しました。これは普通に発酵の時に用いられるサッカロマイセス・セレビシエ(難しい名前ですが、平たく言えば、ビールやパンを作る酵母です)を入れた場合よりも非常に多くなりました(図の真ん中と右側を比較してみて下さい)。ちなみに、WTマウスは普通のマウスで、TLR2マウスは細菌などを認識できないマウスであり、デクチン1マウスは酵母を認識することができないマウスです。これにより、味噌から見つかった新しい酵母は免疫を強く抑制し、行き過ぎた免疫を調整できることが示されました。味噌は古くて新しい健康食材です。これからたくさんの研究が進むでしょう。