第112回 味噌発酵生成物・ コハク酸とがん
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スポーツの秋、読書の秋など様々な秋がありますが、そのうちの一つ「食欲の秋」。その料理に欠かせないのが「味噌」です。味噌はその種類により、原料(麹を含む)、配合割合、製造方法、熟成方法、熟成期間などが異なりますが、その食味と香りを決定するのは、発酵によって生じる有機酸です。味噌の有機酸は何十種にも及びますが、今回、この有機酸のひとつであるコハク酸ががん細胞を抑制する研究が発表されました(Med Oncol. 2021 Oct 23;38(12):144)。この研究では、味噌の発酵時に増加するコハク酸またはその誘導体ががん細胞をアポトーシス(細胞死)させることを証明するものです。使用した細胞は、腎臓がんの細胞株として、CAKI-2細胞およびACHN細胞を用いました。そして、健康な細胞株としてMRC-5細胞を用いています。これらの細胞にコハク酸を添加して、細胞が生存するか否かをアネキシンVテストと細胞死ELISAキットを用いて測定しました。結果は、コハク酸を25μMおよび50μM の濃度で24時間暴露すると、図のように、腎臓がん細胞であるCAKI-2細胞 (89.8%および90.8%) およびACHN細胞 (41.6%および54.5%) の細胞生存率が著しく低下しました。また、予想どおり、健康な細胞株であるMRC-5細胞には影響を与えませんでした。同様に、同じ用量のコハク酸暴露による細胞分解の測定結果では、CAKI-2細胞では細胞死の断片率が 4.7倍および 2.1倍、ACHN 細胞では同じく32.9倍と12.7 倍増加しました。これで、がん細胞が完全に死傷されていることが分かります。古来より伝わる麹発酵によって増加する有機酸は日々の摂取によってがん細胞の発生を抑える可能性が示唆されました。