第113回 アメリカの医療と収入
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この10月から後期高齢者(75歳以上)の医療費負担増も始まりました。本人年収が200万円以上の人は窓口負担が1割から2割へと増加します。今回は後期高齢者が対象ですが、将来的には全体的な負担を増やそうという議論もなされています。そのような中で、アメリカでの収入と平均寿命(ここでは余命)の関係が示された有名な論文をご紹介したいと思います(Lancet 2017; 389: 1475–90) 。アメリカの所得格差は、過去40年間で拡大し続けています。アメリカでの平均余命は、中所得および高所得のアメリカ人では伸びていますが、貧しいアメリカ人の間では停滞しており、一部の人々では低下さえ起こしています。図から分かるように、世帯年収で1万ドル(日本円で150万円程度)を境にして男女共に、年収に従って平均余命が短くなっています。つまり、低所得と健康状態の悪化との関連性がより強くなっていることが示されています。喫煙、肥満、薬物乱用などの個々の危険因子が関与していますが、勾配が急になっていることを完全には説明できていません。低所得のアメリカ人には有益な健康情報に触れたり、教育される機会が与えられていない可能性もあります。我が国においても確実に所得格差は大きくなっており、一方で、国民健康保険制度や各健康保険組合も赤字に直面しています。健康について、社会的経済的不平等が起こらないように、私たちひとりひとりの叡智が結集されることを希望してなりません。