第121回 人獣共通感染症
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9月初めに、世界を驚かせるニュースが駆け巡りました。オーストラリアで女性(64歳)の脳から生きた線虫が発見されたのです。この女性は2年ほど前から、胃痛や咳などに悩まされていましたが、近年では物忘れやうつ症状が発症していました。このため手術を行なったところ、脳の中から活発に動く8cmくらいの線虫が摘出されたのです。このニュース以降、講演会や記者取材で、人獣共通感染症について尋ねられています。
人獣共通感染症は脊椎動物とヒトの間で自然に移行する病気のことを言います。清潔な環境が展開されている現代では、人獣共通感染症はほとんど見られないと思っておられると思いますが、人獣共通感染症は近年増加の一途を辿っています。これは、ペット数の増加やジビエ料理の流行などが理由です。人獣共通感染症の代表的なものに、トキソカラ症があります。これはイヌやネコの回虫がヒトに伝染する病気ですが、世界中で発症しています。この研究ではイヌとネコとの接触(環境および動物への曝露)が、子供(18歳未満)と成人(18歳以上)にとって危険因子であるかどうかの研究がなされました(Front Public Health. 2022 Jun 28;10:854468.)。この研究ではさまざまな地域の20.515 人を対象としています。図に示すように、全体として、イヌまたはネコと接触した子供13,496人のうち1,882人がこの病気を持っていました。一方で、成人の場合には7.019人のうち513人が感染していました。(7.3%; 95% CI = 6.7-7.9)の成人が、血清学的に抗トキソカラ抗体の試薬を検出した。子供の場合には、イヌとネコの両方に接触した場合、その感染率は統計的有意に増加しました。イヌやネコとの濃厚な接触をする場合には注意が必要です。特に子供は感染率が高くなるため、更なる用心が必要です。なお、動物病院で行う検査では全ての感染症を検出することは出来ません。おひとり、おひとりの注意が必要です。